(撮影:岡本隆史)
演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第42回は俳優の小林勝也さん。杉村春子さんとの共演など、文学座で活躍を続けていた小林さん。文学座以外の芝居もたくさん観に行き、刺激をもらっていたそうで――。(撮影:岡本隆史)

前編よりつづく

杉村さんとの共演は密かな財産

杉村春子さんとの共演は、なんと文学座の財産演目、森本薫の『女の一生』(89年)で、長男・伸太郎を演じたとか。これは大役。天涯孤独の少女・布引けいは、ふとしたことから堤家に拾われ、その闊達な気性を見込まれて長男の妻となり、次男の栄二への思いを強く断ち切る。

――僕はこれが最後の杉村さんのけいかと思ってたら、翌90年にも演じておられましたね。とにかく明治生まれの杉村さんとは40近く年が離れていますから。次男の栄二が持ち役の北村和夫さんとは16歳違い。で、この時も栄二は北村さんでした。

普通、この芝居は栄二の芝居だと思うでしょ。でも僕は伸太郎の芝居だと思ってます。三幕で、けいと言い争う時に、「お前は自分を偽ってないのか? 栄二のほうが好きだったんじゃないのかね」って言うところ。僕がすごく強い言い方をしたんですよ。

そしたら演出の戌井市郎さんが、「小林君、伸太郎はそんな激しい言い方はしませんよ」って。その時、僕は初めて演出家に逆らって「けいを一番愛してたのは僕は伸太郎だと思ってて、普段はおだやかな伸太郎がこの時は爆発するんじゃないかと思うんです」って言った。