『俺の歯の話』バレリア・ルイセリ・著/松本健二・訳

 

「あとがき」も含めて完成する現実と虚構の物語

〈ハイウェイ〉と呼ばれているメキシコ人の〈俺〉が、いかにして〈世界一の競売人〉になり、自分の歯を、オークションに出ていたマリリン・モンローの歯とそっくり入れ替えることになったのかまでを描く「第一の書」から始まるバレリア・ルイセリの『俺の歯の話』は、かなり変わった小説だ。

お金が必要になった〈俺〉が、事実を誇張した魅力的なエピソードを香具師(やし)の口上よろしく並べ立てることで、歴史上の人物や存命の有名人たちの歯(偽物)を売りさばくオークションの様子を描いた「第二の書」。

会場となった教会に来ていた、生き別れの息子に自分の歯を落札され、全部抜かれてしまったばかりか拉致軟禁されることになる「第三の書」。

カフェで出会ったボラヒネという若者に、〈俺の物語を書いてもらいたい。俺の歯の話だ〉と依頼する場面で、この物語が聞き書きによる自伝だったことが判明する「第四の書」。

〈俺〉が自分の歯を取り戻し、盗みに入ったギャラリーの作品に物語を付け加える競売テクニックを披露する「第五の書」。

ボラヒネの視点からハイウェイの人生最後の数ヵ月間を描いた「第六の書」。

ハイウェイの生涯と本書中に出てくる人物の注釈を並べた年表「第七の書」。

そして、これがある展覧会のために書かれたコラボレーション小説だと明かす「作者あとがき」を最後に置くことで、現実と虚構を融合させる構造が完結するという、凝りに凝った作品になっているのだ。

「第三の書」で主人公が入れられる部屋の壁に映し出されたピエロの絵や、「第五の書」で物語が付与される作品は、今もメキシコのフメックス美術館のホームページで閲覧できるそうなので、読後はググってみてください。

『俺の歯の話』
著◎バレリア・ルイセリ
訳◎松本健二
白水社 2800円