「もしかして」と、こちらも同じく口ごもる。「もしかして、そのひとは背が高かったですか」

「ええ──そうですね。そうだったと思います」

「ちょっと待ってください。いま、おっしゃったボールペンのメーカーの名前──スウィフトでしたっけ」

 急いでポケットから手帳を取り出すと、

「これって夢ですか」

 彼女がすかさずそう言った。

 

「はい?」

「同じなんです、何もかも。メーカーの名前を書きとめますとおっしゃって、その」と手帳を指差し、「その、まさにバルーン社の手帳を──とっくに廃番になったコーヒー・ブラックをそうして取り出しました。しかも──」

 彼女が手のひらで口をおさえると、ほの暗い店の中で手のひらの白さだけがまぶしいほど際立って見えた。

「その手帳の表紙についた傷」

 手のひらにさえぎられた声がくぐもって聞こえる。

「この」と口から離した左手が手帳に近づいてきて、突き出した人差し指が手帳の表紙の一点に触れるか触れないかに接近していた。

「この、針で引っかいたような傷もそっくり同じでした」