
定年退職して6年。けっこう忙しくしていたので、老けた自覚はなかったが…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは埼玉県の60代の方からのお便り。娘を車で駅まで送った帰り道、ふと目にした新しくできるお店の店名に、思わず噴き出してしまい――。
お楽しみはこれから
最近、夜中に目が覚める。疲れていても目が覚める。トイレでなくても目が覚める。これはやっぱり年のせいか。そういや肌もかさついて、長女に「化粧水はたっぷりつけなさい」と叱られた。定年退職して6年。趣味に友人との付き合いに、けっこう忙しくしていたので、老けた自覚はなかったが、確実に年は重ねているらしい。
先日、友人に会いに行く次女を、車で駅まで送った。「日付が変わる前に帰ってよ。起きて待つのはきついから」と言うと、「お母さんも年とったねえ。前は、終電には間に合わせなさいよ、と言ってたのに」と皮肉る娘。起きて待つ体力もなくなってきていたのか。心にチクッと刺さるとげ。
駅で娘を降ろし、信号待ちの最中になにげなく周囲に目をやった。新しい店ができるらしく、改装工事をしているところ。何のお店だろう。おや、看板が置いてある。
「居酒屋 還暦」
一瞬、ポカンと口を開け、直後に私は噴き出した。どういうお店よ、笑っちゃう。青信号で車を発進、しばらく笑いが止まらない。なんて素敵なネーミング。ご主人が還暦なのか、還暦の客狙いなのか。いずれにしても還暦世代、まだまだ元気と気がついた。
そう、60代はこれからだ。自分のために生きられる時間だ。夜中に目が覚めても、お肌が多少かさついても、体力がなくなっても、お楽しみはこれから。
まずはあのお店がオープンしたら、行ってみようと心に決めた。