
ニコニコ列車に揺られて
長らく乗ってみたいと思っていた静岡県の岳南電車。先日、テレビで見たという弟に誘われ、夫と3人、喜び勇んで出かけました。
車で始発の吉原駅に向かったのですが、駐車場から駅までの道でさっそく迷ってしまって。交番で尋ね、教わった方向へ行くも、どこで間違ったのか一向にたどり着けません。
ウロウロしていたところを2人組の男子高校生が通りかかり、これ幸いと道を尋ねると、「こっちです。僕らも同じ方向なので一緒に行きましょう」と、優しい対応。てくてくと後をついていけば、ついに待ち望んだ駅舎が見えてきました。初めて訪れるのに、なんだか懐かしい匂いがします。
「切符の買い方はわかりますか?全線乗るならこっちです」。そこまで面倒を見てくれるのかい君たち!と感動を覚えながらお礼を言って、高校生たちと別れました。切符売り場で駅員さんから渡されたのは、これまた昔懐かしい、硬い紙の切符。夫も弟も私も、嬉しくてニコニコが止まりません。
岳南電車は製紙工場の間を走る線で、すべての駅から富士山が望めると聞いていました。列車が動き出すと、快晴の空に富士山の雄姿が輝いて最高の眺め。われわれは富士山と一緒に写真を撮ろうと、あれこれカメラのアングルを調整して大はしゃぎ。観光客丸出しです。
弟が下調べしてきたうどん屋さんで昼食をとるべく、岳南原田駅で途中下車。駅舎に隣接したお店に入ると、外のテーブルで詰め合って食べている人、駅舎の切符販売機の台で立ち食いをする人など、各々自由にうどんを楽しんでいて、微笑ましく思いました。
美味しい食事を終え、再びのんびり列車の旅に戻ります。終点・岳南江尾駅の周辺で風景を楽しんでいると、吉原行きが到着。帰り道も目一杯楽しむつもりで、先頭の運転席の後ろに陣取りました。
走り出してから、運転台の隅にガムテープが置いてあるのを弟が発見。「まさか、ガムテープで車両を修理しながら走るのかなあ」などと冗談を言っていたら、次の停車駅で運転士さんが振り向いて、「修理には使いません。車内に迷い込んできたカメムシを捕まえる時に使うんです」と説明してくださいました。「わあ、聞こえてしまった。失礼失礼」と慌てる弟に、みんなで大笑いです。
しばらくすると、われわれの近くに座る老婦人の隣に、若い男の方が乗ってきました。ご婦人が、「回数券が余ってしまったから、よければ差し上げます」と男性に話しかけるのが聞こえてきて。「いえいえそんな、自分で買います」と遠慮する男性に、思わず横から話しかけてしまいました。
「いただいてあげてください。あなたが、またどこかでほかの人に何かしてあげたらいいのですよ」。その一言で男性は嬉しそうに切符をもらい、老婦人も笑顔に。和やかな雰囲気で吉原駅に帰ってきました。人のあたたかさを感じられた、いい旅でした。