一人飲み経験のない私が恐れたこと
加えて、私にはこの店に行かねばならぬ理由があった。ご主人にちょっとした用事があったのだ。というか「作った」のである。
一人飲み経験のない私が最も恐れたのは、店の中で一人、ポツンと浮き上がってしまうことだ。だって、そんな状態で針のムシロに座っての「機嫌よく一杯」なんてありえないではないか。
でも普通に考えて、どうやったってそういう状況に陥りそうである。だって一人なんですよ!隣にいるのは知らない人。あるいは空気。つまりは咳をしても一人。
それを避けるにはどうしたらいいか。
そりゃやっぱ、会話でしょう!我が目指すところのフーテンの寅さんだって、いつも絶妙の会話にて店の懐にスイッと入っていく。そう、感じのいい一言こそがきっと世界を変えるのだ。
だが一体、何を話せばいいのか。
会話には話題というものが必要である。だが、会ったばかりの人と共通の話題がどこにあるかなんて、わかるわけない。