手持ち無沙汰と戦う

何事も滑り出しが9割。ここまでくれば後の会話はなんとかなる。

もちろん話題は、ご主人の紹介で取材が決まった酒蔵について。ちょうど良い機会なので、事前取材を兼ねて次々と質問。

社長さんはどんな方か。イケメンの息子さんについて。そしてどんなポイントを取材したら面白いか……。

ああ~話題があるってなんて素晴らしい!ユーモアいっぱいで客あしらいのうまいご主人と、要所要所で絶妙の合いの手を入れてくださるキュートな奥様にも助けられ、ようやく、緊張のあまり1センチほど浮いていたお尻が、椅子にしっとりと馴染んでくるのがわかる。

というわけで、おもむろに「ナスのたたき」を注文。

いやー、なんか一人酒っぽくなってきました!

だがフト気づけば、1分もしないうちに目の前のナスが半量以下に。お酒のグラスもすでに空っぽに近い。

なるほど。一人だと手持ち無沙汰なあまり、つい間を埋めようと、矢継ぎ早に酒と料理に手が伸びてしまうのである。イカンイカン。もっとゆるりと楽しまねば。

深呼吸して、一口食べるたびにいちいち箸を箸置きに置くことにする。我ながら上品である。慌てて飲み込まず、よくよく噛んでみたりもする。

ナスだから噛んでるうちにすぐなくなっちまうが気にしない。大事なのは「落ち着いて」「料理をちゃんと味わう」という心がけである。

 

一人酒はゆっくりと落ち着いて(写真はイメージ/写真提供:Photo AC)