近山さんは新潟の農村の商家に生まれ、複雑な家族関係のなか親戚の家などを転々としたこともある。
「居心地の悪い環境でつらく理不尽な経験をしたので、『血縁でなくてもいい、仲間や《家族》と、自分が選び取った場所で安全に暮らしたい』と思って生きてきました。弱い立場の人間にとって《どこで誰とどう住むか》ということは大問題。誰にも侵害されない居室は《命の砦》です。
人は死ぬときまで、安全な住まいの確保と、困ったら声をかけ合える人の存在が必要だと思いました。だからこそ、私はできるだけ相手の考えや気持ちを聞くようにしています」
2002年、小西さん、駒尺さんらが構想した高齢者住宅「友だち村」(現・ブランシエール友だち村)が静岡県伊豆市に完成。近山さんも入居者となり、そこで小西さんも駒尺さんも最期を迎えた。近山さんはそれまでの経験を生かし、新しい事業に取り組む。
たとえば、サ高住の「ゆいま~る」シリーズの企画。団地をリノベーションし、高齢者と若い世代の交流を図るプロジェクトもその一つだ。
なかでも10年にスタートした「ゆいま~る那須」は、高齢者が助け合って暮らす住まいであり、地方再生の事例としても評価されている。
もともとは、那須町の別荘で暮らす人の高齢化と人口減少に悩んでいた事業会社の相談を受けたことから始まったそうだ。
「自然豊かな土地に新たな地域拠点を作ろうと、《那須100年コミュニティ構想》を企画。今の『広場』にもつながりました」