屈託のない態度に拍子抜け
食卓テーブルの上には薬の袋は見当たらない。父の寝室に行って机の引き出しを開けてみようと思ったが、いくら親子でもさすがに机の中を物色するのは憚られる。寝室から大声で父に聞いた。
「引き出しを開けて、薬がないか調べるからね!」
父の返事は聞こえなかったけれども、宣言をしたのだから許されるだろう。ボールペンなどの筆記用具やクリップが入っている引き出しには、病院名の書かれている白い薬袋は見当たらない。ところが2番目に開けてみた大きな引き出しの中に、2種類の薬のシートを発見した。
私はスマホで錠剤の名前を入れて検索してみた。想像通り父が飲んでいる血圧とコレステロールの薬だった。居間に戻って私は言った。
「あー、良かった。机の引き出しに薬が入っていたよ。2週間で1ヵ月分を飲んでしまったのかと心配していたんだよ」
父はニッコリ笑っている。
「そうか、あったか。なんで引き出しに入れたんだろうな。いつもは袋のまま置いておくのに」
屈託のない父の態度に拍子抜けして、私は嫌味が口をついた。
「それだけ忘れっぽくなったってことでしょ! 気を付けてよ」
すると父は取り繕うように言う。
「誰でも年を取ると忘れっぽくなる。やってしまったことは仕方がない。テーブルの上に、日にちを書いて見えるようにしておいてくれ」
仕方なく、油性の細いサインペンで薬のシートに日にちを記入して、父に見せてから言った。
「飲み過ぎないでよ!」
父は明るく言い返してきた。
「飲み忘れても、多く飲むことはない。大丈夫だ」
ユーモアでごまかされて、私はどういう態度を取るべきかがわからなくなってしまった。ともあれ、取り急ぎ病院の先生に報告しなければならない。