免許返納バトルの開始
電話の内容が父に聞こえるように、私はスマホのスピーカー機能をONにして電話をかけた。薬は家にあったことを報告すると、先生は安心したと言ってくれたが、運転のことは再度注意された。
「お父さんの運転は危ないから、来月からは久美子さんが運転してお父さんを連れてきてくださいね」
「はい、わかりました」
電話を切った私に父は言った。
「俺はおまえの車に乗せてもらうつもりはない。今まで事故を起こしたことがないのだから、運転はやめない」
こうして8年前の夏から、運転をやめる気がない父と、事故を起こす前に免許を返納させたい私とのせめぎ合いが始まった。
2024年2月に刊行された『オーマイ・ダッド!父がだんだん壊れていく』(中央公論新社)の元となる婦人公論.jpの連載には、車の運転を諦めるまでの父の葛藤を現在進行形で書いてきた。
現在96歳の父のことは、これからも続く番外編で書かせてもらいます。共感したり、楽しんでいただいたりしてもらえたらうれしく思います。
(つづく)