物忘れをユーモアで取り繕う父
病院を出て、駐車場から父に電話した。
「これから行こうと思っているの。家に居てね」
「あぁ、さっき家に戻った。コンビニでそばを買って来て、昼飯を食べたところだ。おまえの分はないぞ」
そうか、父は今日も車で出かけていたのだ……免許返納の件を切り出すタイミングをうまく見つけられるだろうか。私は父の家に到着すると洗面所でうがいと手洗いをして、タオルで手を拭きながら、さりげなく病院で先生から伺った薬の件を伝えた。
「パパ、昨日病院に薬をもらいに行ったんだってね」
父は、居間のテレビで高校野球を見ていて、うわの空で返事をしている。
「うん、行った」
「今月2回目だから薬は出してもらえなかったのでしょう?」
悪びれもせずに父は答える。
「大丈夫だ。薬がなくても俺はピンピンしている」
私はカッとなってしまった。
「いらないなら、病院に行く必要なかったでしょ。先生だって忙しいんだからね!」
父は「あっ! 1点入った!」 などと言って、高校野球中継から目を離さない。まさに馬耳東風だ。私は勝手に薬探しをすることにした。