料理にも老いの兆候が現れている
「最近、ばあさんが作るものが甘すぎたりしょっぱすぎたりで、旨くないんだよなあ」
父が私の耳元でこっそりつぶやく。
90歳ともなると、味覚臭覚ともに衰えてくるのだろう。
母が料理をしているところを少し離れたところから窺っていると、包丁を握る手元が危なっかしい上に、火を入れすぎたり、生煮えだったり、調味料を入れすぎたりと、ありとあらゆるところに老いの兆候が現れている。
「このところ台所仕事もしんどくなってきたから、料理はすべて娘に任せてるのよ」
ご近所の80代のおばあさんは、あっけらかんとそう言っていたが、
「みんなが私の料理はすごくおいしいって言うんだよね」
自己アピールに余念がない母が、娘の私に買い物や炊事を明け渡すわけがない。