意地っ張り大魔王の母
ちなみに、私は別の炊飯器で玄米を炊き、老父母の食事が終わった後に、自分用の食事を作って食べる生活を続けている。
「何だか、旨そうな匂いがするなあ」
私が料理をしていると、父がヒョコヒョコとのぞきにくる。
「何、作ってんだ?」
「ハヤシライスだけど……」
「俺は、そのハヤシライスってやつを食べたことねーかもしれねーなあ」
「食べてみる?」
「そうだなあ。ちぃーっと食べてみるかな」
「口に合わなかったら残していいからね」
父と私が食卓を囲んでいると、やはり気になるのだろう。茶の間とダイニングルームを仕切っている障子の間から母がほんの少しだけ顔を出す。ただ、意地っ張り大魔王の彼女は、私が作ったものを決して食べようとはしない。
「案外、旨いもんだなあ。もうちっともらおうかな」
「なーに、おとうさん、こういうハイカラなものも食べるんだ」
「食べるよ。ただ、お前が作ったものをおいしいおいしいって食べてると、ばあさんが焼き餅焼くんだよなあ」
そう言って父が肩をすくめたと同時に、茶の間の障子がパタンと閉まった。
※本稿は、『実際に介護した人は葬式では泣かない』(双葉社)の一部を再編集したものです。
『実際に介護した人は葬式では泣かない』(著:こかじさら/双葉社)
自分の両親と子どものいない叔母夫婦4人の介護を経験した著者が、その実態を赤裸々に綴る。
「早くお迎えが来て下さい」と祈ってしまうのはあなただけじゃない、あなたは悪くない、と介護者の気持ちを軽くしてくれる、「大介護時代」必読のエッセイ。