意地っ張り大魔王の母

ちなみに、私は別の炊飯器で玄米を炊き、老父母の食事が終わった後に、自分用の食事を作って食べる生活を続けている。

「何だか、旨そうな匂いがするなあ」

私が料理をしていると、父がヒョコヒョコとのぞきにくる。

「何、作ってんだ?」

「ハヤシライスだけど……」

「俺は、そのハヤシライスってやつを食べたことねーかもしれねーなあ」

「食べてみる?」

「そうだなあ。ちぃーっと食べてみるかな」

「口に合わなかったら残していいからね」

父と私が食卓を囲んでいると、やはり気になるのだろう。茶の間とダイニングルームを仕切っている障子の間から母がほんの少しだけ顔を出す。ただ、意地っ張り大魔王の彼女は、私が作ったものを決して食べようとはしない。

「案外、旨いもんだなあ。もうちっともらおうかな」

「なーに、おとうさん、こういうハイカラなものも食べるんだ」

「食べるよ。ただ、お前が作ったものをおいしいおいしいって食べてると、ばあさんが焼き餅焼くんだよなあ」

そう言って父が肩をすくめたと同時に、茶の間の障子がパタンと閉まった。

 

※本稿は、『実際に介護した人は葬式では泣かない』(双葉社)の一部を再編集したものです。

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