自分の人生は幸せだと思える大人に育てることが僕の使命
僕には今年21歳になる長男と19歳になる長女がいます。子育てのことは、いつかこういった本(『子育てこそ最高の生きがい』中村堂)を書くことになったらと、長男が2、3歳の頃からメモに書き溜めてきました。
子を持つ前は「子どもは褒めて育てたい」と僕も漠然と思ってきました。でも実際、子育てしていくと「ただ褒めてばかりではだめなんだな」とわかりました。いつも一本調子で褒めていたら誰でも慣れてしまいますよね。両親がそれぞれ違うことを言うと、楽な方に流されてしまうということもわかりました。
僕が子どもに望むこと、子育ての目標は、彼らが大人になった時に自分の人生をいいものだと感じ、幸せになってもらうこと。ただそれだけを望んで彼らと関わってきました。
長男はピアニストになりたいと幼い頃から言い始めたので、ずっと指導をしてきました。ピアノというものは、後から「ピアニストになりたい」と思ってなれるものではなく、若いうちに技術を高めておかなくてはいけないジャンルの芸術です。音楽家の中でも特に鍛錬が必要とされています。
2022年に彼は念願のCDデビューを果たしました。それを機に僕は息子のピアノの指導からは退くことを決めました。デビューして独り立ちしたというのもあります。もう一つの理由としては、息子から「父の言う通りにさえしていればいい」という気持ちが透けて見えてしまったからです。答えは自分自身で見つけ出さないといけないし、譲れないものがない人間にならないと心を打つ演奏家にはなれない。幸い息子のピアノは評価されて、デビューすることはできましたが、僕はまだまだだなぁと感じています。野生動物の世界でも、子が独り立ちする前には親が崖から突き落として別れを告げるということが知られていますが、僕ら親子にとって今がその時なのかもしれません。
長女はと言えば、実は声楽家を目指しています。娘はバイオリンをずっとやってきたのですが、最近になって声楽に挑戦し、これを生業としたいと言うようになりました。声楽家を志すこと自体は遅くないのですが、ものになるまでにとても時間がかかるのが声楽の世界の辛いところ。娘にはこの先もバックアップする条件として、大学、もしくは大学院を卒業するまでに、一つでいいから国家資格を取るようにと言い渡しました。国家資格があれば、娘が40歳になって、声楽を諦めなくてはいけなくなったとしても、生きてはいける。親は夢を見る素晴らしさも教えなければいけませんが、現実を見ることも伝えないといけないと僕は思ってきました。
