ヤン坊ニン坊トン坊
そんなとき、転機になったのが、ラジオドラマ「ヤン坊ニン坊トン坊」だった。インドの王様から中国の皇帝に献上された、3匹の白い猿の子どもたちが、中国を抜け出して、両親の待つインドを目指す、歌も入ったミュージカル調の冒険物語だ。NHKは、ドラマの主役である子猿たちの声のオーディションをやる、と発表した。
それまでのラジオドラマでは、子役の声は必ず、子どもがやっていた。それを作者の飯沢匡先生が、
「子どもの役を子どもがやるのは嘘がないからいい、なんて思っているのが、いちばんの大嘘なんだ。脚本をきちんと理解するのも、感情移入をして演じるのも、生放送(当時はほとんどすべて生放送)で歌を歌うのも、絶対に大人の方がいい。大人の女性で、子どもの声を出せる人がいるはずだ。どうしても子どもを使うというなら、僕は降りる」
と強く主張して(「子どもたちがスタジオで宿題をやるのは可哀そうだ」とも先生は言っていた)、かつてないオーディションが開催されることになったのだ。このドラマ以降、子どもの声を大人がやるのは当り前になったのだから、これはまったく、飯沢先生による〈コロンブスの卵〉だった。
そのオーディションでは、楽譜を渡されて、すぐに歌うようなテストもあったのだけど、音楽学校に通っていた私には幸いしたのか、すんなりトン坊役に決まった。