ずっと大切な、たからもの

こうして、小林先生の「きみは、本当は、いい子なんだよ!」や、飯沢先生の「直すんじゃ、ありませんよ。あなたの、そのままが、いいんです!」という言葉は、私にとって、ずっと大切な、たからものであり続けた。

そして、おふたりのことをゆっくり思い出していると、おふたりだけではなく、さまざまな人が、さまざまな場面で、さまざまな年齢の私にむかって言ってくれた、いろんな大切な言葉があることに、あらためて気づくようになった。

アメリカの劇作家、テネシー・ウィリアムズに「欲望という名の電車」という有名な芝居がある。日本では杉村春子さんが、長年、女主人公のブランチ・デュボアを演じていた。その幕切れで、ブランチは「私はいつも、見ず知らずのかたのご親切にすがって生きてきました」と言う。

私は、ブランチみたいに、「ご親切にすがって生きる」ほど、ひどい境遇におかれたことはないし(いや、戦争で疎開しているときは、そうでもなかったかもしれない)、また、「いつも、見ず知らずのかた」というほどではないけれど、いろんな人から、かけられた言葉で救われたり、励まされたり、自分という人間が何となくわかったりしたことは、これまでに数えきれないほどあった。

ささやかで、ごく個人的な、そんな言葉を、座右の銘と呼ぶのかどうかは、今でもよくわからないけど、いくつか思い出すままに、書き残していきたい、と思う。

書いておけば、そんな言葉が、私以外の誰かのためにも、いつか役立つことがあるかもしれないし、そんな言葉を私にかけてくれた人たちのことだって、誰かが記憶にとどめておいてくれるかもしれないのだから。

※本稿は、『トットあした』(新潮社)の一部を再編集したものです。

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