「あなたの、そのままが、いいんです!」
子どもに絵本を上手に読んでやるお母さんになりたくてNHKへ入った私にとって、ドラマの内容から言っても、「ヤン坊ニン坊トン坊」は願ったり叶ったりの番組だった。私は、ほかの番組と違って、これだけは絶対に降ろされたくない、と思った。だからオーディションの後で、審査員をしてらした飯沢先生に紹介されると、急いで、
「私、喋り方も声もヘンだ、とみんなから言われています。個性も邪魔だと言われます。勉強して、個性も引っ込めて、直すところは直しますから、降ろさないでください」
と言った。
飯沢先生は笑いながら、即答された。
「あなたの喋り方や声こそが、いいんです。どこもヘンじゃありません。絶対に、そのままでいてくださいよ。いいですね? あなたの個性こそ、僕たちが必要としているものですからね。直すんじゃ、ありませんよ。あなたの、そのままが、いいんです!」
世界の色が一変したようだった。こんなことを言ってくれた人は、それまで、どこにもいなかった。世の中に、私の個性を必要としてくれる人がいる。それがたまらなく、うれしかった。
ガヤガヤを降ろされ続けても、同期の仲間たちは演劇部などで芝居の経験のある人が多かったけど、私は学芸会もろくに出たことがないのだから、まあ当然だろう、くらいに思っていた。だいたい、NHKに入った理由だって「テレビに出よう」とか「俳優になりたい」とかではないのだから、とも思っていた。だから、それほど傷ついたり、へこんだりはしていなかった。
でも、もし、あのまま「個性が邪魔」とか「帰っていいよ」とか、2年も3年も言われ続けていたら、いくら呑気者の私だって、まともなことを何ひとつできない大人になっていただろうな、と思う。
飯沢先生がおっしゃってくださった、「直すんじゃ、ありませんよ。あなたの、そのままが、いいんです!」という言葉を、その後の人生で、私は何度も何度も思い出すことになった。