(写真提供:Photo AC)
帝国データバンクの発表によると、2025年上半期に倒産した医療機関は全国で35件となり、倒産が過去最多となった2024年を上回るペースとなっています。このような状況のなか、京浜病院院長の熊谷頼佳先生(「頼」は、正しくは旧字体)は「地域に必要不可欠な中小病院の多くが、経営難で存続が難しくなっているのが実情」と指摘します。そこで今回は、医療制度の過酷な実態について記した著書『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』より一部引用、再編集してお届けします。

調理をすれば火事を出し、車を出せば逆走が日常に!?

認知症は、世間話が通じないくらいなら害はないが、問題は、自分が認知症だという自覚なく、火を使った調理や車の運転をしている人が多いことだ。この数年で、家庭の調理器のオール電化や自動運転の技術が急速に進んで認知症の人でも安全に調理や運転ができるようになればいいが、2030年頃までに、全世帯の台所がオール電化されて、火を消し忘れても自動で消えるようになるのは不可能だろう。ましてや、認知症の人でも安全に動かせる自動運転の車がそれまでに開発され、全ての車がそれに置き換わるなどということはあり得ない。

何しろ、認知症だという自覚がない人が多いのだから始末に悪い。家族も、どこかおかしいと感じていても、しっかり者だった父親や母親が認知症だと認めたくなくて、診断が遅れるケースも少なくない。実際に、認知症の患者に毎日接している私から見たら、「この人、どう考えても認知症だな」と思う運転手のタクシーに乗ることがある。

例えば、都内で会合があるときに乗ったタクシーの60代くらいの運転手は、あきらかに認知機能が低下していた。私が院長を務める病院はJRの駅から少し離れているので、病院の前からタクシーに乗って会合のある会場へ向かおうとした。カーナビに住所を入力してもらったのだが、やたらと狭い路地に入るなあと気づいて窓の外をよくよく見ると、通ったことのない道を走っている。

「運転手さん、大丈夫ですか。なんか道が違うような気がするけど」と何度か声をかけてみたが、「ナビ通りですから、大丈夫です」と繰り返す。何度か声をかけたところ、「大丈夫ですってば」と怒り出した。