予防法も治療法も確立されていない認知症
ところで、10年前の2012年時点の調査による推計では、2030年時点の認知症患者数は約744万人になるとされ、今回の調査では221万人も減る形で下方修正された。ただ、これは、MCIから認知症に移行する人が減るとみられたためで、2022年時点のMCIと認知症を合わせた総数は、2012年時点の調査と大きな変化はないという。認知症の患者数が、10年前より減った理由として、研究班の報告書では、下記のように考察し報告している。
〈喫煙率の全体的な低下、中年期~高齢早期の高血圧や糖尿病、脂質異常などの生活習慣病管理の改善、健康に関する情報や教育の普及による健康意識の変化などにより、認知機能低下の進行が抑制され、認知症の有病率が低下した可能性が考えられる。〉
ただし、生活習慣病の改善で認知症の発症や進行を防げる可能性があるのは、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症だけだ。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症は、今のところ原因が不明で、予防法も治療法も確立されていない。これは推測に過ぎないが、もしかしたら、すでに、予防も治療も難しいレビー小体型認知症と前頭側頭型認知症の割合が増えているかもしれないのだ。そして、家族や周囲の人とトラブルを起こすケースの多くは、この2つの認知症だ。
※本稿は、『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(著:熊谷頼佳/中央公論新社)
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