(写真提供:Photo AC)
帝国データバンクの発表によると、2025年上半期に倒産した医療機関は全国で35件となり、倒産が過去最多となった2024年を上回るペースとなっています。このような状況のなか、京浜病院院長の熊谷頼佳先生(「頼」は、正しくは旧字体)は「地域に必要不可欠な中小病院の多くが、経営難で存続が難しくなっているのが実情」と指摘します。そこで今回は、医療制度の過酷な実態について記した著書『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』より一部引用、再編集してお届けします。

わが病院も倒産の危機に

病院経営に陰りが見え始めたのは、1990年代の後半頃だ。建物が古くなってきて設備的に見劣りするようになり、周囲にも同じような療養病床を持つ病院が増えて徐々に入院患者が減り、空床が生じるようになった。外来診療の報酬はたかが知れており、病院は、ほぼ満床になるように入院患者を増やさなければ診療報酬が得られない。

病床が埋まっている割合を示す病床稼働率は、療養病床の場合少なくとも90%以上、できれば95%を超えないと病院経営は赤字になるとされる。収入は減っても、病床数と算定する入院基本料によって雇わなければならない看護師数や医師数が決められている。スタッフには、毎月滞りなく給与を支払わなければならない。病床数とスタッフ数を減らして経費を下げるようにしたものの、満床にならない日が続いた。

診療報酬は全国一律同じ価格なので、同じような治療とケアが受けられるのなら、患者は新しくてきれいな病院への入院を希望する。どんな産業でも設備投資が必要なように、建物の建て替えやリフォームをして、新しく高度化した医療機器を入れなければ、周囲の病院に太刀打ちできない。そこで銀行に、病院建て替えの資金調達を相談したが、「すでに土地建物を担保にした借金が多いので、これ以上の貸し出しはできません」とけんもほろろに断られる始末だった。

診療報酬は病院が儲からないように設定されている。気概のあるスタッフを集めて質の高い医療を提供して診療報酬を得ても、いくつかのベッドが埋まらない状態が続けばすぐに経営は赤字になる。どんなに経営状態がよくても、民間病院が建物の建て替えや設備投資に回す費用を確保することは至難の業だ。大学病院も含め国公立病院などは建物が古くなると建て替えをし、最新の医療機器を導入しているが、それは診療報酬以外に補助金や教育機関としての収入や寄付金が投入されているからだ。そのため、診療報酬が下がって収支が赤字になっても何とか存続できる。

バブル期には、京浜病院の土地の評価額が高騰していたこともあり、それほど厳しい審査もなく事業資金を貸してくれた銀行の担当者も、地価が下落しデフレの時代に入ると手のひらを返したように冷たくなった。病院は何とか黒字を維持し、借入金の返済も滞ったことはなく、地域のニーズを受けて一般病院から介護療養型病院へ転換して経営状態は安定していたのだが、追加融資を受けられなかった。

銀行が新たな貸し付けを渋ったのは、京浜病院が個人病院だったからだ。もともと祖父が創設した当時は医療法人財団京浜病院だったが、父はいったんその医療法人を退職し、1973年から個人病院として京浜病院を運営してきた。父は医療法人にすることを拒み続けていたが、銀行側が資金提供の条件として提示したのは、個人病院を医療法人の病院にすることだった。

そこで、東京都に医療法人化を相談したところ、今度は、多額の借金がある状態での医療法人化はできないと言われ困惑した。確かに、医療法には、新たに医療法人を設立するときにはある程度自己資金が必要なうえ、多額の借金を抱えていてはいけないという規定がある。そのときにはまだ、ピース病院を買収したときに借りた借金がかなり残っていたため、そのままでは医療法人を設立できない状態だった。