父が認知症、脳梗塞に

私の認知症外来には、重いBPSDの患者も次々と紹介されてくるようになり、ケアはなかなか大変だったが、病院経営はある程度安定した。

しかし、病院経営が安定していた時期も、父個人の名義となった借金は、私たち親子を苦しめ続けた。慢性疾患や重い認知症の患者や家族と地域住民のため、長年一緒に闘ってきたスタッフのためと考え、病院を存続させてきたが、父は、相次ぐ病気やけがに見舞われながらも、一生涯借金の返済を続けた。医療法人の理事長として、高額所得ランキングに載りそうな収入を得ていながら、給料から税金と健康保険料、わずかな生活費を差し引き、借金の返済をすると、手元には1円も残らない状態だった。私も連帯保証人になったこともあり、給料の一部を借金返済にあてなければならなくなった。

父は2010年頃に認知症になった。また、私が医療法人の理事長を引き継いだ直後の2012年9月に脳梗塞を発症し、右半身が麻痺して失語症となり寝たきりの状態になった。それでも、2014年1月に永眠するまで借金返済は続いた。父は、表向きは高額な所得を得る高額納税者でありながら個人資産はほとんどなく、生涯、自分の家を持つこともなかった。若いときはもちろん、晩年もぜいたくをすることもなく、借家に住み続けたのだ。

そして、父の死後はその借金を私が相続し、給料の大半を高額のローン返済にあてることになった。相続する際、資産がマイナスになる場合には相続放棄をして借金を帳消しにすることができるが、病院の土地と建物を担保にした借金なのでそれを放棄することもできない。今度は私が、借金の返済に追われることになった。

病院の院長や理事長は、豪邸に住んで高級車を乗り回しているというイメージがあるかもしれないが、そんなことができるのは、借金のない状態で親が創設した診療所を受け継いだ一部の開業医だけだ。中小の民間病院の経営者の多くは青色吐息で、資金繰りに頭を悩ませている。父と私も、親子そろって表向きは高額納税者でも、手元には使えるお金がなく生活はかつかつの状態だった。