右往左往しながら約3年が経過する
なかなかこちらの思うような売却先が見つからず、右往左往しながら約3年が経過した。仮契約まで進んだのに、いきなりその契約を反故にされたこともあった。
そうこうするうちに病院の経営状態が急激に悪化し、入って来る診療報酬よりも、スタッフの給与や経費などで出ていくお金の方が多くなって資金繰りがショートし始めた。その途端、メインバンクの担当者の対応も厳しくなった。自転車操業のような状態になって資金繰りのために新たに借金をしなければならなくなり、ギリギリの状態だった。このままではスタッフの給与さえ払えなくなって倒産してしまう。
父もピース病院を買い取ったときには資金繰りに苦労し、詐欺師にだまされそうになったことがあるが、まだ医療がこれから伸びると信じられていた時代だっただけましだった。祖父の代から続けてきた病院を簡単に潰すわけにはいかない。何とか踏ん張りたかったが、正直、ここまで追い詰められたことはなかった。どうしたらいいのかわからず、眠れない日々が続いた。
とにかくどこかに引き取ってもらうしかない。正直言ってかなり切羽詰まっていた。M&Aが成立したのは、2018年3月のことだ。ギリギリの状態で、高齢者医療や在宅医療に力を入れ、訪問看護ステーションや特別養護老人ホームなども運営する新富士病院グループの傘下に入ることになった。私は院長にとどまることになり、こちらの条件をかなりのんでくださる形で、円満に買い取ってもらった。もっと早く新富士病院グループに入る決断をしていればよかったというのが、いまの正直な気持ちだ。
そして、京浜病院は令和になる直前の2019年4月に重度障害者向けの一般病院に転換した。新京浜病院を2022年2月に閉院し、その跡地に新しい病棟を建て替えて2025年2月に増床してリニューアルオープンした。最終的には、旧京浜病院の建物も改装してベッド数173床の病院にする計画である。
※本稿は、『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『2030-2040年 医療の真実-下町病院長だから見える医療の末路』(著:熊谷頼佳/中央公論新社)
なぜ、日本の病院は、次々に潰れていくのか?
本書は、高齢化した下町の病院長だからこそ見える医療の過酷な実態を明らかにし、この国の医療と介護をダメにした原因を指摘。
日本の医療崩壊を大胆に予測する。