今も記憶に残る初めて褒められた日

それからテレビや舞台で一作一作、いただいた役と向き合い、もがきました。俳優になって初めて「ひとつ仕事を達成できたな」と感じたのは、藤田まことさんと一緒に立たせていただいた舞台『剣客商売』の劇評が出たときです。

僕はテレビドラマの同シリーズで、藤田さん演じる秋山小兵衛の息子・大治郎を03年から演じてきました。04年上演の舞台版に出演した際、藤田さんが「こんなこと書かれてるぞ」と新聞記事を見せてくださったのですが、そこに「山口馬木也の立ち回り、一見の価値あり」と書かれていたのです。

どこへ行っても怒られてばかりで何もできなかった自分が、初めて褒められた。あの日のことは今でもはっきり覚えていますし、時代劇の所作をより大事に追求していこうと思いましたね。

藤田さんは10年に世を去られましたが、その直前にも「剣客」の舞台をつくる計画があって、ご病気をされたことで中止になっていたんです。お見舞いにうかがった際、「舞台できなくてごめんな。この借りはいつか返すからな」とおっしゃったのが、ほぼ最後の会話になりました。

お世話になったという言葉では言い尽くせないくらい、俳優として大事なことを教えてくださった恩師であり、実の父のような存在でした。じつは『侍タイムスリッパー』の最初の上映館となったシネマ・ロサは、藤田さんの出生地・池袋にあるんです。

スピリチュアルなことは詳しくない僕ですが、もしかしたら何かご縁があったのかな、藤田さんが導いてくれたのかなと思わず考えてしまいました。藤田さんにも、この盛り上がりを見ていただきたかったですね。

そもそも、そんなふうに考えないと説明がつかないヒットの仕方でしたからね。映画が面白かったと言えばそれまでですが、僕としてはそういった見えない力にも後押しされた気がしているんです。今は藤田さんをはじめ、これまでお世話になったすべての方たちに感謝しています。