中学でボーイフレンドができた時も、「ママは教えてあげられんから」と、生理や妊娠の仕組みを書いた『17歳の性』なんて本を渡してくる。そんなふうに信頼されたら、裏切れませんよね。
兄たちには、「おふくろはちょっと変わってる」なんて言われていましたけど、私にとっては最高の母親。「あや子ちゃん大好き、あや子ちゃんはママの宝物よ」と言ってくれる母の助けになりたいと、自然と考えるようになったのです。
私たちが独立し、父も亡くなって7年間ほど一人暮らしをしていた母は、趣味の短歌の集まりに行ったり、近所の仲良しとおしゃべりをしたり、いつも楽しそうでした。
地元に住む長兄は頻繁に顔を出していたし、大阪に住む次兄も定期的に実家の片づけをしてくれて。私も毎日のように電話しては、明るく元気な母の声に、すっかり安心していたのですが……。
猛暑だった2011年の夏。顔を見に行った次兄から「おふくろはエアコンの温度設定ができなくなっている」と聞き、心配になって駆けつけました。玄関を開けると、いつもすぐに聞こえてくる母の「お帰り」の声がしません。
上がり框(かまち)にはお中元らしき巨峰の箱があって、その横のマットにべったり血がついています。「どうしたん!」と寝室に駆け込むと、ぐったりと横になった母。
どうやら荷物を持ち上げる時に、むこうずねを打ったようでした。血中酸素濃度を測るとひどく数値が低く、入院させることに。