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私たちが生きていくうえで不可欠な「呼吸」。現代人は忙しさに追われるなかで、無意識に浅く早い呼吸になっていると言われます。山陰地方で呉服店・和想館を経営する和と着物の専門家である池田訓之さんは「着物を着ていた日本人は、本来深い呼吸をすることが出来ていた。実際、今も着物を着ることで日本古来の呼吸法のひとつ“密息”と呼ばれる深い呼吸となり、身も心も穏やかになる」と話します。着物と呼吸の関係について池田さんに解説いただきました。*医療情報監修:芝千太郎さん(本名:森川由基。医学博士、芝流舞踊療法研究所・家元付師範、もりかわ在宅ケアクリニック楠・院長)

現代人は呼吸が浅くなっている?

近年「現代人は呼吸が浅くなっている」と指摘されています。

たとえば日本医師会の公式サイトの「深呼吸をしましょう」(https://www.med.or.jp/komichi/holiday/sports_02.html)には

「日本人は元来腹式呼吸をしていたと考えられています」「現代人はふだん胸の上部だけ使った浅い呼吸(胸式呼吸)をしがちなうえ、ストレスなどによって呼吸がさらに浅くなりやすいことから、慢性的な酸素不足が指摘されています」

などと記載されています。

ちなみに「胸式呼吸」は、その名の通り、胸(胸郭)を膨らませたり縮めたりして行う呼吸法のこと。運動時や緊張時など、急いで酸素を取り入れるのに役立ちますが、疲労感の蓄積や集中力の低下などをきたします。

一方、主に安静時に行われる「腹式呼吸」は、横隔膜の動きによってお腹を膨らませたり縮めたりして行う呼吸法で、リラックスした状態で深くゆったりした呼吸をすることにより酸素を四肢の末端まで送ることができるので、四肢が和らぎ、気分が落ち着きます。

つまり、腹式呼吸が理想的な呼吸法であるにもかかわらず、胸式呼吸に偏りがちな現代人。そもそもなぜ呼吸が浅くなってしまったのでしょうか?

時代の変化の激しさの中で、ストレスや緊張の負荷がかかり、胸式呼吸が強調されるというのがまず一つ。それ以外にも、長時間のデスクワークやスマホの使用による猫背姿勢。さらに運動不足による筋力低下によって横隔膜や腹部の筋肉がうまく使えなくなり、深い呼吸がしづらくなった、といった要因が考えられます。