75歳の吉永みち子さんは、子どもと同居せず、長年ひとり暮らしを続けています。今の生活に至るまでの葛藤や、これから先の暮らしの準備、子どもとのかかわり方などについて、遠距離介護の取材を重ねてきた太田差惠子さんと語り合いました。(構成:村瀬素子 撮影:本社・武田裕介)
物理的な距離が精神的自立への近道
太田 吉永さんは、お子さんたちが巣立ってからずっとひとり暮らしだそうですね。
吉永 ええ。末の息子が成人して家を出て以来だから、23年になるのかな。でも、私が60歳くらいの時に一度、その息子から「家に戻りたい」と言われたことがあるんです。断固、拒否しましたけれど。(笑)
太田 お子さんと暮らせることを嬉しく思う親御さんもいますが、なぜ断ったのでしょう。
吉永 当時20代だった息子は、自宅と仕事場の2つの家賃を払っていて、首が回らなくなったみたい。「実家で暮らせば、家賃と光熱費が1軒分浮く」と考えたんでしょうね。でも、その申し出を受け入れたら、息子の精神的な自立を妨げることになる。それに、私の快適なひとり暮らしを手放したくなかったの。
太田 そうでしたか。互いに年を重ね、価値観も生活スタイルも違う大人の親子が一緒に暮らしても、なかなかうまくいかないケースを私はたくさん見てきました。
もちろん、同居して心地よく暮らしているご家庭もあるので一概には言えませんが、離れて暮らしている親子のほうが円満な関係を築いている場合が多いという印象があります。