ただ、そんなのは大したことではありません。私にとってなにより衝撃的だったのは、敗戦後にそれまでの価値観が180度ガラッと変わったこと。学校の先生も、昨日と今日とで言うことが正反対。
戦時中は怪我や病気をした兵隊さんをみんなで大事にお世話していたのに、終戦後はコロッと手のひらを返すような扱いをしました。さらには親を失って行き場をなくし、上野に集まった子どもたちをお国が強制収容したり。
そんな混沌を目の当たりにし、厭世的な考え方が私の中に根を張ったのです。大人なんてあてにならない。人間、生きていても死んでも同じようなもの、と――。
ところが、80年近く根付いていた死生観を大きく変える出来事が、つい昨年ありました。どうしたわけか急に高熱が出て、食べることはもちろん、水を飲むことすらできなくなって。「こういう状態で、あと何日くらい命がもつだろう」と、ネットで調べた答えと、お医者さんの診断が一致したので、「もうすぐ終わるのだな」と思いました。そうやって静かにその時を待っていましたけれど、いっこうに終わらないの。(笑)
命が終わるはずだった予定日も過ぎていき、点滴をしたところ、生き返ってしまいました。そうなると、「やっぱり生きているほうがいいわ」と思うようになるものですね。
これまでは「いつ死んでもいい」と思っていましたが、今は「抱えている連載が終わるまでは生きていよう。できるだけ体を大事にして、生きられるだけは生きよう」という考えになったのです。90歳を過ぎても、人生観って変わるものですね。