小説『神の汚れた手』など多数のベストセラーで知られる作家・曽野綾子さんが、2025年2月に逝去されました。曽野さんは小説のほか、近年では老いについてのエッセイも手掛けていました。そこで今回は、老いを充実させる身辺整理の極意についてまとめられた著書『人生の後片づけ: 身軽な生活の楽しみ方』から一部を抜粋し、ご紹介します。
私を幸福にしてくれる要素は四つある
老年に向けての幸福論などというものを改めて必要とするようになったのは、私たちの寿命が長くなったからである。
高齢まで生き延びた人たちが、もしも思考するという能力を残しているなら、それは大きな幸せだが、自分の意志もなしに長寿を与えられているとしたら、それは手放しで喜べることではない。
老年の幸福を、私は敢えて健康を別にして考えたいと思う。なぜなら健康は深酒、暴食、喫煙のような自分に責任のある要素を除くと、素質的な要素が多いから、自分の自由にならないのである。
そして健康という要素を除外しても、私を幸福にしてくれる要素は四つあるだろうという気がする。