メンズスキンケア大学が、2018年に男性ビジネスマンを対象に実施した調査によると、日本人男性のスキンケア実施率は約5割だったそうです。そんななか、小説家の高殿円さんは、アラフィフの夫が息子の影響で突然スキンケアに目覚めたという体験をし、「おじさんの多くはなぜ『肌を気にすることが恥ずかしい』のか?」という疑問を抱きます。今回は、そんな高殿さんの著書『父と息子のスキンケア』から一部を抜粋し、ご紹介します。
とある日の洗面所
ある日のことだった。何の変哲もないごくふつうの月半ばの休日だったと記憶している。
その日私はパーソナルジムに行き、帰りにちょっとばかりおいしいものが食べたくなってパスタソースを買い込むために無印良品へ向かった。日々の生活費と年々増える息子の学費におびえながら暮らす一般家庭である我が家にとって、無印のパスタソースは紛れもなく貴族のパスタソースである。
無印というのはまさに魔境で、パスタソースを買いに行ったはずが、日用品が見たくなり、シンプルなステーショナリーが気になり、すぐそばにディスプレイされている季節の衣類を見て、ああそういえばこんなものが必要だったな、と思い出す。
そういう必要かもしれないモノを思い出す連鎖が購入に直結する魔法の導線作りは、無印のように広いスペースに展開するマルチ小売業にしかできないから、私のような小市民は、ああどうか無印よここにいて、このテナント料が払えるくらいには繁盛し続けて、ずっとずっとここで無印やっていてほしい、と強く祈らずにはいられなかった。