昭和文学を読む面白さ

清張さんの最終学歴は尋常小学校ですが、学歴ごときで自分を決められてしまうことに悔しさを感じていたはずです。学歴に限らず、属性によって決めつけられるのは悔しいに違いないという想像力が働いたのでしょう。

だからこそ、女性に対しても、「女性だから」という決めつけはせず、平等に接していたようです。北九州の朝日新聞で働いていた時も、女性社員から人気があったという証言があるようです。

一方、作品の中では、お金に執着する《オールドミス》が類型としてよく登場します。当時、働く女性はまだ少数派だった。ですから清張さんが描く働く女性は、会社員であっても、《負け犬》的な人が多くなる。

なにせ女性は35歳が定年、などという会社もあったのですから。仕事で成功しているのは、水商売の女性や自分で事業を起こした人です。これは、あの時代の限界を表していたのだと思います。そんなふうに、図らずも時代が見えてくる点も、昭和文学を読む面白さでしょう。

もし、今の時代に清張さんが生きていらしたら、どんな女性を描いたでしょうか。当時は存在しなかった、組織の中で上りつめていく女性像も描いてもらいたい。そんな妄想も楽しんだりしています。

 

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