《人生二毛作》の生き方

Aさんはそれまで土にへばりついて生きてきたけれど、浮いたお金でまずアジアを旅したらすごく面白かった。

言葉が通じなくても、身振り手振りでなんとかなることも知り、次はアフリカ、次は南アメリカと、あまり人が行かないようなところを旅するように。すると、帰国後、友だちが話を聞きに来てくれたりと、人間関係も変わっていきます。

入院中、Aさんの病室にはアフリカの音楽が流れていて、しょっちゅう友人が会いに来る。もちろんお子さんやお孫さんもよく顔を出していました。

そしていよいよ最期の時、僕が「今、心臓が止まりました」と伝えると、病室にいた長男と親友が拍手を始めたのです。それにつられて一緒に見守っていた身内や友人たちも拍手を始める。

僕は50年医者をやってきて、死を告げた時に拍手で送り出す光景は初めてでした。

Aさんは60歳くらいまでアクセルを踏みっぱなしで生きていたけれど、60を超えて人生の下り坂に入り、見事にギアチェンジをしたのだと思います。好奇心を全開にして、それまでやったことのないことをやって面白く生きたら、まわりに人が集まるようになって、お子さんやお孫さんからも敬愛される年寄りになった。

そして最後はなんと拍手です。いわば人生二毛作。こういう生き方はカッコいいなぁと思いました。