77歳のいまも、医師として多くの患者と接している、鎌田實さん。「ちょうどいいわがまま」の延長線上には、「ちょうどいい死に方」が待っているのだそうで……(構成:篠藤ゆり 撮影:難波雄史)
意思表示は元気なうちに
2025年で医者になって50年。その間、多くの「死」を見てきました。わりあい「いい死」をたくさん見てきましたが、なかには「残念な死」もあります。
残念な死は、「自分がどのような最期を迎えたいか」を家族に伝えていなかったことで起きやすい。たとえば父親が突然、脳卒中で倒れ、家族は医者の言いなりに人工呼吸器や胃ろうを受け入れた。
その結果、自力で呼吸や食事ができない状態で長く生きたけれど、これでよかったのだろうか――。こうしたケースでは、残されたご家族は後々まで葛藤を抱えてしまう。万が一の時には、余計な延命治療はしないでほしい、といった意思表示を元気なうちにしておくことが大事です。
一方で、上手な死を遂げることができた人たちも大勢見てきました。その一例が、80歳の時に末期がんで諏訪中央病院の緩和ケア病棟に入院したAさんというおじいちゃんです。
「お仕事は何をしてたんですか?」と聞いたら、「農業」。なんでも60歳くらいまでは、村一番の野菜を作ろうと張り切り、新しい農機具や新しい肥料が出るたびに買い、苗や種にもこだわったそうです。
それなりに面白かったけれど、常に借金があり、働いても働いても生活は楽になりません。そこで新しい農機具や肥料を買うのをやめ、キュウリは曲がっていてもいいじゃないか、雑草が生えていても構わない、と考えを変えました。すると支出がかなり減ったのだとか。