歌が歴史を巡りめぐって生き抜いている

メリー・ホプキンの「悲しき天使」っていう曲があるんですけど、それをアメリカで歌ったとき、まだ10代の男の子が「泣いちゃった」って私のところにきたの。「お母さんがいつも歌ってくれた歌で、この歌をあなたが歌うと思わなかった」って。もしかしたらその子は亡命ロシア人かもしれないって感じたんです。

「悲しき天使」というのは、亡命ロシア人の歌なんですよね。スターリンの時代、ロシアのポップソングが一斉に禁止されて、古い音楽しか許されなかった。その頃の曲なんです。私は最初そんなこと全然知らなかったんだけど、歌っていくうちにそんな背景が分かってきて。百万本のバラもそうだけど、歌にはいろんな運命があって、巡りめぐって物語がつながっていくんだなと。ポール・マッカートニーもこの曲を歌っているんだけど、彼はこのことを知ってたんじゃないかって思います。実は悲しき天使は、ヘイ・ジュードよりも売れた曲なの。

音楽は水なんですよ。そこに染みやすい土(風土)があると、世界中のあちこちで歌っているとそう思います。日本で受けたとか実績があるとか、そういうのに関係なく、そこの空気にピタってはまる曲がある。アメリカで「悲しき天使」という意外な歌を切り札的になるという大きな発見。