人類の社会性が発達した鍵
およそ200万年前、前期更新世かそれ以前に、人類の祖先は他の霊長類から重要な点で袂を分かった。より短い間隔で子を産むようになったのだ。最初の子が自力で食事をしたり身を守ったりできるようになるよりずっと前に、2番目、3番目、さらには4番目の子を妊娠するようになった。
人類学者クリスティン・ホークスは指摘する。「人間の赤ちゃんは生まれながらにして、母親の全面的な関与を受けられなくなった」。赤ちゃんは母親以外の大人に頼らざるを得なくなった。他に選択肢はなく、さもなければ生き残れなかったろう。
逆の見方もできる。人類の祖先は、子育ての支援がなければ短い間隔で子供を産めなかったはずだ。こうした出産の仕方こそ、繁殖成功率を劇的に高め、人類を地球上で最も優勢で、最も社会性が発達した霊長類にしたのだ。
初期の人類では、母親はとても重要だったが、母親だけでは到底十分ではなかった。自然選択により、養育者の注意を巧みに引きつける赤ちゃんが、また女性に限らず、すべての大人が赤ちゃんの呼びかけに強く反応する家族が優位に立った。多くの霊長類に社会性があるが、母親以外の大人への赤ちゃんの顕著な依存こそが、人類をここまで協調性の高い生き物へと進化させた鍵だと一部の著名な人類学者は唱えている。
この依存関係が、社会生物学者エドワード・O・ウィルソンが初めて提唱した「親代わりによる子育て(アロペアレンティング)」(“allo-”はギリシャ語に由来する、「他の」を意味する接頭辞)への道を大きく切り拓いた。現在の多様な家族形態を可能とし、親の脳の研究者が解明しつつある神経生物学的な変化のパターンを促進した。研究結果は親たち──実の親か否か、出産経験の有無にかかわらず──に神経生物学的な共通点があることを浮き彫りにしている。
すべての大人は養育者として成長する能力を備えている。実の親でなくとも、子育てで脳が根本的に変化する。そしてその変化の多くは持続する。親としての行動がいつか他の子供たち──将来生まれる子や甥姪、近隣の子供、中でも特に重要な孫──に利益をもたらす可能性が高いからだ。