(写真提供:Photo AC)
「小さくも強い赤ちゃんの世話を一身に担うことで、親の脳にどのような変化が起こるのかを科学者たちは数多く明らかにしてきた」と話すのは、ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストのチェルシー・コナボイさんです。妊娠と出産によって、親の脳にはどのような影響があるのでしょうか?今回は、チェルシーさんの著書『奇跡の母親脳』から、人類の脳と育児の謎に迫ったレポートを一部ご紹介します。

子育ては母親だけのものか

赤ちゃんと親は足並みを揃えて成長し、互いに反応しながら社会的な神経回路を変化させていく──これは母子の絆の絶対的な重要性を裏づけていると解釈できるかもしれないが、もしそうなら、赤ちゃんは母親の腕の中でべったり一緒にいなければならないという結論になるだろう。

だがこの論理には根本的な問題がある。今日、働きながら子育てしているほぼすべての親、特に複数の子供がいる親が直面している問題だ。つまり、親の注意が分散せざるを得ない。これは人類が進化を通じてずっと直面してきた問題でもあり、むしろ人間の本質の中核をなしているといっても過言ではない。

哺乳類の赤ちゃんはほぼ無力な状態で生まれてくる。そのため彼らは生存に不可欠な大人を引きつけることに非常に長けている。赤ちゃんの愛らしい特徴やサイレンのような泣き声は大人の動機づけや反応性、自己認識を司る神経回路を活性化させ、変化させる強力な刺激となる。彼らは訴えかける。「目をそらさないで。面倒を見て。私たちが生き残ればあなたたちが生き残ることにつながるの」

ほとんどの哺乳類(すべてではない)で、赤ちゃんは自分を産んだ大人と完全に結びついている。非ヒト霊長類では約2割で母親の手助けをする大人がおり、赤ちゃんを抱いたり食べ物を与えたりする。しかし、特に協調性のある一部のサルを除けば、赤ちゃんの生存を支える上でサポート役が果たす役割は比較的小さい。結局、母親による世話が圧倒的な部分を担っているのだ。