赤ちゃんの写真を見た時の反応
ホクゼマたちは母親が自分の赤ちゃんや、他人の赤ちゃんの写真を見た時の脳の反応も測定していた。自分の赤ちゃんを見た時に最も強い神経活動を示した複数の領域が、妊娠中に最も顕著な灰白質の体積減少を示していた。この体積減少は、機能低下を意味するのではなく、むしろ社会的認知に関わる脳のネットワークの「さらなる成熟や特殊化」を表しているとホクゼマたちは解釈した。新米の母親たちは体積減少が大きいほど、愛着度を測定するアンケートのスコアが高かった。
報酬系の一部、側坐核を含む腹側線条体の変化の詳しい分析では、より大きな体積減少を示した女性が、自分の赤ちゃんの写真に対してより強い反応を示した。彼女たちは次のように結論づけている。
「研究結果は、女性が母親へ移行することをサポートする社会的な脳の構造が、適応的に洗練されていくという初期段階の証拠を提供している」(ちなみに初期の分析では、パートナーの妊娠前後にスキャンした父親の脳に体積変化は見られなかった。ただしこの時、男性たちは出産後2年の時点ではスキャンされていなかった。後の分析では、心の理論に重要なデフォルトモードのハブである楔前部の体積と皮質の厚さの減少が確認された)
最も興味深いのは母親の脳の変化が長期的なものであるかもしれないことだ。親になって2年後、再度スキャンを受けた一部の母親では、灰白質の体積減少がほぼ維持されていた。出産後6年でも、フォローアップを行うと、ほとんどが体積減少を持続し、さらに愛着度の測定値と相関していることが確認された。研究者たちは「これらの発見は、妊娠によって引き起こされる脳の変化が、永続的である可能性を示唆している」と結論づけている。
※本稿は、『奇跡の母親脳』(新潮社)の一部を再編集したものです。
『奇跡の母親脳』(著:チェルシー・コナボイ 訳:竹内薫/新潮社)
「親になると、脳が変わる?!」
ピュリッツアー賞受賞のジャーナリストによる、従来の「母性神話」では説明のつかない、人類の脳と育児の謎に迫る衝撃のレポートです。