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集中力を保つことが苦手、整理や計画が苦手などの特徴がある発達障害の一種<注意欠如・多動症(ADHD)>。累計120万部を突破した『スマホ脳』シリーズの著者であり、精神科医のアンデシュ・ハンセンさんは「誰でも多かれ少なかれADHDの傾向がある」と話します。そこで今回は、アンデシュさんによる書籍『多動脳:ADHDの真実』から、一部を抜粋してご紹介します。

運動は天然の治療薬

運動は少量のリタリンを完璧なタイミングでもらえるようなものだ。

──ジョン・J・レイティ(精神医学研究者)

10月のある日、コンサルタントとして働く35歳の男性が受診にやってきた。これまで一度も精神的な問題はなかったのに、ここ半年で急に気が散るようになり集中できなくなったそうだ。かといって気分が晴れないわけでもないし、うつ状態でもない。

結婚生活はうまくいっていて、3歳の娘がいて、友達も多い。両親も健在で、仕事は好きだし給料も良いという。「つまりプライベートでも仕事でも何の問題もないんです」

趣味は大人になってから始めた中距離走で、週に10時間は走っていたが数カ月前にランニングの最中に膝を痛めてしまった。

怪我のせいで走れなくなりお腹回りに脂肪がついたが、影響はそれだけではなかったようだ。集中力に問題が出始めたのはいつ頃かと尋ねると、膝を痛めた直後だという。じわじわと集中力が失われていき、気が散ってばかり。家では請求書の支払いや書類の整理もできなくなった。

仕事ではもっと問題になっていて、ミーティングについていけないから録音しているほどだという。同僚も彼の変化に気付き、上司からはメンタルに問題でもあるのかと心配された。そうではないと答えたものの、集中できなくなったことを正直に話す勇気はなかった。