「現実に存在する危険に圧倒され、「自分などちっぽけで無力な存在だ」と感じてしまう人もいるでしょう」(写真提供◎photoAC)
厚生労働省の発表では令和4年の自殺死亡率は17.5%で、前年に比べて男女ともに増加していました。快適な暮らしができるようになった現代ですが、精神的な不調で苦しむ人は多いです。そこで、100万部突破した『スマホ脳』シリーズの著者であり、精神科医のアンデシュ・ハンセン氏による「心の取説(トリセツ)」をご紹介します。人間の脳は、明るいニュースよりも恐怖や不安を感じるようなニュースばかり強く感じるそうですが、それにとらわれないようにするための方法とは――。

恐怖症の原因

高いところが怖いですか? 狭いところにいるとパニックを起こしますか?

「そんな場所に行かずにすむなら何でもする」と思うほどなら、それは「恐怖症」です。怖がりたくなどないのに激しい恐怖に襲われる──それもまた、あなたの脳が正常で自分の仕事をしているだけです。過剰に反応し過ぎな場合も多々ありますが。

しかしなぜ、それほど危険ではないことにまで恐怖を感じるのでしょう。なぜかというと、私たちが恐怖症になるようなことは、かつては実際命に関わったことだからです。

人前で話すことも、「怖くてやりたくないこと」のランキング上位によく入りますが、昔はそれがグループから追い出されるリスク──何かまずいことを言って嫌われるかもしれない──につながったからです。追い出されてしまうと、ほぼ必ず死ぬ運命が待っていました。

ヘビやクモもわかりやすい例です。種類によっては今でも命に関わりますが、現在のヨーロッパでヘビに噛まれて死ぬのは年間4人程度で、かたや自動車事故では8万人が亡くなっています。

それなら自動車が目に入るたびに怯えるべきなのですが、自動車は最近の発明なので脳はまだ恐怖を抱くようには進化していません。

本当はやりたいのに恐怖症のせいで出来ないなら、あるいは恐怖のせいで精神状態を悪くしているようなら、ここでもやはりCBT(認知行動療法)を受けると良いでしょう。

セラピーではパニックを起こさず恐怖に向き合うことを少しずつ学ぶことができます。安心な状況でゆっくりと記憶を変化させていくのです。