母親の脳の変化の発見
脳の変化が持続するのは、生存戦略として優位に働くからかもしれない。エルスライン・ホクゼマが語るところでは、もし親が「ずっと育児モードにあり、孫が生まれた時にも活性化されたままであれば」、孫は進化の過程で優位になる。少なくとも、人類の初期の段階においてはそうだった可能性が高い。
ホクゼマはアムステルダム大学医療センターに新設された研究室の所長を務める神経科学者だ。博士課程はバルセロナで、神経可塑性の様々な側面をエリカ・バルバ=ミュラーとスザナ・カルモナという二人の女性研究者と研究していた。ホクゼマも二人も母親になることを考え始めており、母親になると脳にどんな影響があるのかという好奇心から、妊娠前後の脳の構造的変化を調査する研究を立案した。
3人は妊娠を希望するカップルを募集し、最終的に25人の初産婦と、それよりやや少ない人数の初めて父親になる男性、子供のいない男女を研究対象とした。他のプロジェクトと並行して進めていたため、研究には5年以上を要した。ホクゼマは主に高齢ラットの脳と人間の神経発達障害に関する研究をしながら、並行して母親の脳の研究を進めた。このプロジェクトには当初、資金がなかったのだ。
2016年に研究結果が初めて『ネイチャー・ニューロサイエンス』誌に掲載された時、彼女は第2子を妊娠中だったが、世界中から取材が殺到した。妊娠が脳に長期的な変化をもたらし、出産直後の睡眠不足に悩まされる数ヶ月間だけでなく、何年にもわたって変化が持続することを実証した初めての研究だったからだ。
妊娠前後の脳スキャンを比較した結果、母親の脳の灰白質の体積が著しく減少していることがわかった。それは特に社会的認知に関わる領域で顕著だった。体積変化は非常に明確で、コンピュータが女性の出産経験の有無を正確に判別できるほどだった。