(写真提供:Photo AC)
「小さくも強い赤ちゃんの世話を一身に担うことで、親の脳にどのような変化が起こるのかを科学者たちは数多く明らかにしてきた」と話すのは、ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストのチェルシー・コナボイさんです。妊娠と出産によって、親の脳にはどのような影響があるのでしょうか?今回は、チェルシーさんの著書『奇跡の母親脳』から、人類の脳と育児の謎に迫ったレポートを一部ご紹介します。

産後うつの多様さ

メルツァー=ブロディの研究の多くは産後うつの解明を目指しており、複雑な診断から糸口を見つけ出し、病源を追究しようとしている。国際的な研究者グループの一員として19の医療機関から集められた数千人の詳細な臨床データを活用し、症状が現れた時期や重症度、不安や自殺願望の有無といった特徴に基づいて、産後うつにはいくつかのタイプがあることを突き止めた。

2016年、彼女の研究グループは、産後うつを経験した女性が自身の情報を研究データベースに提供できるアプリを立ち上げた。一部の参加者には唾液採取キットを自宅に送り、DNAサンプルの提供を依頼した。

立ち上げから3年後、広告代理店の協力を得て「産後うつとたたかうお母さんの遺伝子」プロジェクトとして大々的に生まれ変わり、デザインの刷新、SNSでのキャンペーン、ロサンゼルスでのイベント、印象的かつ心に響く動画広告が展開された。「これで一層弾みがつきました」とメルツァー=ブロディは語っている。

2021年秋の時点で、この国際研究グループは約2万人の女性から遺伝データを収集し、ゲノムワイド解析〔遺伝的特徴と病気・体質との関連を網羅的に見つけ出す手法のこと〕の結果を発表する準備を進めていた。目標は10万人。データベースが完成すれば、産後うつの様々な遺伝的リスクについて有意義な洞察が得られると期待されている。研究が進めば効果的な検査や治療法に結びつくだろう。