産後うつの脳の特徴

画像研究に限界があることは研究者も十分に認識している。マクマスター大学神経科学博士研究員のアヤ・デュディンは「目標は個々の研究グループの違いを超えて、複数の研究で一貫して確認される結果を見出すことです」と言う。一貫した発見の一つが扁桃体に関するものだ。

産後に重度のうつ症状を示す人では、赤ちゃんの苦しげな泣き声など、概してネガティブな刺激に扁桃体の反応が鈍くなっているという。これはうつ症状の重症度に比例して強くなる傾向がある。一般的な大うつ病性障害での扁桃体の過剰反応とは正反対だ。

(写真提供:Photo AC)

デュディンは脳画像研究を単純な説明に集約する難しさを浮き彫りにした興味深い研究者の一人でもある。この研究は子供のいる女性といない女性を対象に、うつ病の有無で比較したものだ。子供のいない女性に、ポジティブな赤ちゃん関連の刺激として笑顔の乳児の画像を見せたところ、扁桃体の反応にはうつ病の有無による差は見られなかった。

一方、うつ病の母親は、うつ病でない母親より見知らぬ乳児の笑顔の写真に扁桃体が強く反応した。さらに、自身の子供の画像でも顕著な反応を示した。重要な発見だった。うつ病でない母親の場合、他人の子より自分の子に扁桃体は著しく強い反応を示したが、対照的に、うつ病の母親は自分の子と他人の子とで反応の差異が比較的小さかったのだ。

この現象は、自分の子に対する「扁桃体の特異的な反応の鈍化」と呼ばれる。産後うつの母親は、赤ちゃんのサインへのレーダーが過敏になっていて、上手く調整されていないということだ。一部の研究者はこれが産後うつの特徴かもしれないという。扁桃体が状況に応じて過剰、もしくは過小に反応してしまい、親としてのやる気と警戒心のバランスが、最適に保たれる適切な範囲を逸脱してしまうのではないか。

うつ病に関連する脳の差異をより精緻に特定しようと試みる研究もある。報酬系に関与する脳領域や、感情調整や実行機能を司る神経回路、白質の結合パターン、神経伝達物質受容体の分布など、多岐にわたる領域に焦点を当てている。

興味深いことに、不安やうつ症状を抱えていても親としての応答性を維持できる人がいる。この事実を踏まえて研究者は、症状が存在する状況下でも養育行動を支える、脳内のネットワークを解明しようという尽力もしている。だがこれらの研究成果を統合しようとすると、研究者たちがしばしば困惑させられるのは、全体像となるとラジオの真空管に現れる無数の曲線のように微妙な差異が多く、明確な形を見出すのに苦心するからだ。

うつ病の既往歴がある人と、産後初めて症状が出る人では、脳内の状態が異なる可能性があるが、ほとんどの脳画像研究ではイエスかノーで患者を分類せざるを得ず、微妙な違いを検出できない。「二項システムなのです」とデュディンは言う。「でも私たちはすべての心の健康や心の病が本質的に多様だと知っています」