いつピアニストになろうと思ったか

ちなみに僕の話をさせていただくと、ピアノを始めたのは3歳のときでした。

姉が2人いて、姉たちが先にピアノを習っていたのですが、自宅でお稽古するときには母が手ほどきをするんですね。その間、姉たちに母を一人占めされることにジェラシーを感じてしまい、「僕も習いたい」と。ピアノを習い始めたきっかけは、嫉妬心です(笑)。

母はピアノの先生だったわけではなく、軽く弾ける程度。趣味としてピアノを楽しんでいました。祖母もピアノをやっていましたが、それもちょっとお稽古で習ってたぐらい。僕の家族に音楽家は一人もいないんです(現在、姉の石井絵里奈はピアニスト)。

ピアニストになろうと決心したのは、中学3年生のときです。発表会でラヴェルの『ソナチネ』を弾いたところ、見知らぬおばあ様に、「あなたのピアノを聴いて幸せになった」と言われたんです。

当時の発表会は誰でも無料で観覧できるようになっていて、客席のほとんどは生徒の親御さんやその親戚の方だったんですけど、ふらっとやって来た見ず知らずのおばあ様に褒められてとてもうれしかったですね。

その頃の僕は、ピアノと並行してサッカーもかなり一生懸命やっていました。サッカーをやっていると楽しいし、もちろん達成感もあったのですが、誰かを幸せにしている感覚はなかった。でもピアノだと誰かを幸せにできるんだな、と思って、これを自分の生業にしたらすごく自分の人生が豊かになるんじゃないか。そして人を幸せにしていけば、幸せって伝染していくし、たくさんの方がよろこんでくれるんじゃないか。

そう思って「ピアノで食べていこう」と決意したんですよね。

今でこそピアノに限らず、サッカーでも人を幸せにしたり、勇気を与えたりすることもできると理解できるのですが、当時はがむしゃらで、サッカーで人を幸せにすることとは程遠かったわけです。

そしてちょうど同じ頃、東京に引っ越すことが決まり、音楽高校に入学。東京藝術大学、ウィーン国立音楽大学で学び、現在に至ります。