事業本部長に就いてしばらく過ぎたあたりから……
その後も優れた商品企画力とマネジメント力を遺憾なく発揮し、2010年に49歳で営業部に異動して部長を務める。取材を続けるなかでも、ますます管理職としての貫禄を増していくのがありありとわかった。
そうして13年、52歳の時に晴れて事業本部長に昇進するのだ。順風満帆のサラリーマン人生に見えた。定期的に会って話を聞くだけでも十二分に感じたのだから、ましてや社内では周りがうらやむ出世街道を歩んでいたことは間違いないだろう。
しかし、事業本部長に就いてしばらく過ぎたあたりから、自分が考える上司・部下関係や職場風土と、新たな時代に社会や若手社員が求める職場の人間関係や文化とのギャップに対して、嫌悪感を露わにするようになる。
象徴する問題がパワハラだった。以前は、「企業文化がうまく伝承されれば起こるはずがない」と自信を持って話していたパワハラが、自身が統括する事業本部内の複数の部署からもパワハラ被害を人事部の窓口に訴えるケースが相次いだのだ。
事業本部長に昇進する前年の12年、厚生労働省がパワハラの定義を初めて公表するなど、パワハラに対する世の中の認識が少しずつ高まりつつあった時期でもあった。