「企業文化の伝承」と「阿吽の呼吸」が大事
中堅メーカーで商品企画部の部長に、同期の先陣を切って昇進したばかりの浜中徹治さん(仮名、当時47歳)に出会ったのは、2008年。取材テーマは、職場内の優位性を利用した嫌がらせ行為であるパワーハラスメント(パワハラ)の防止対策だった。
当時、和製英語のパワハラという言葉はすでにある書籍をきっかけに世に出ていたものの、厚生労働省がその定義を公表するのは4年後のこと。各企業ではパワハラそのものが十分に認識されておらず、まして実効性のある対策を図っているケースはわずかだった。
そんななか、浜中さんは当時としては数少ない、パワハラに対する意識の高い管理職であり、パワハラが起こる背景・要因と対策について、上司と部下の関係性や職場環境・風土面から語ってくれたのだ。
「まずパワハラなんてものは、それぞれの企業特有の職場の文化が、上司から部下へとうまく伝承できていれば起こるはずがないんです。というと、なんか、伝統文化の継承みたいな難しい話のようですが……あっ、は、は……日々取り組んでいれば問題ありませんよ」
大学時代、相手フォワードと直接組み合うスクラムの要であるプロップを担っていただけあって、身長180センチほどもある大きな体に似つかわしく、豪快に笑う。
「嫌がらせ・いじめと、指導などは全く異なるものですからね。これは部下の育成のための、部下のためを思った、上司からの指導や注意であることをしっかりと相手に伝えていけば、それをいじめなどと間違って捉えることは起こらないと思いますね。つまり、言葉に出さずとも、『阿吽の呼吸』が大事ということなんです。まあ、『根回し』とも言いますけどね。うっ、ふふ……。私たち管理職だって、若手時代から先輩、上司にそうして鍛えられたお陰で、成長することができたわけですから。そのあたりをしっかりと理解して、日頃から上司と部下の関係を築いていく、そんな職場風土を育んでいく。それが私たち管理職に求められている重要な役目だと思っています」
「企業特有の文化」も、上司と部下の「阿吽の呼吸」も、浜中さん自身が会得して実践し、会社員としての成長、さらには管理職として昇進を重ねるという出世にもつながっていた。
低くて太い、よく響く声で堂々と言い切るその姿には、部長として幸先の良いスタートを切った自信がみなぎっていた。