社内「根回し」を超えたパワハラ問題

「最初に取材してもらったように、私はもともとパワハラに関する知識があり、意識も高い管理職として部下の育成、人間関係の構築に努めてきました。その根底を支えていたのは、前にも言ったように、長年受け継がれてきた企業特有の文化と、上司・部下の阿吽の呼吸、根回し力です。それなのに……それが、そのー、今ではうまく通じなくなってきていて……」

浜中さんにしては珍しく、言いよどむ。

「社内の『根回し』では収められないところにパワハラ問題があるということですか?」

「まあ、そう……そう、言わざるを得ませんね。すみません、今日はこの辺でいいですか」

中途半端な答えのまま、浜中さんからインタビューを切り上げたのはこの時が初めてだった。戸惑いの大きさがうかがえると同時に、何か自身にも問題を抱えているようにも見えた。だが、この時は聞き出すことができなかった。己の不甲斐なさを痛感した取材でもある。

15年末、電通の新入社員の女性(当時24歳)が過労自殺し、労災認定された事件を契機に、「働き方改革実行計画」にパワハラ対策が項目に加えられる。その5年後、改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法*1」)施行により、20年6月から、パワハラの防止対策が大企業で義務づけられることになる(中小企業は22年4月から)。

そうして、浜中さんもやがて、その渦中の人となってしまうのだ。

*1 パワハラ防止法に基づく「パワーハラスメント防止のための指針」(パワハラ防止指針)によると、パワハラとは職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるもの――の3つの要素を満たすものと定義している。