一人ひとり異なる「業界」を生きている
より理解を深めるために、「業界(ごうかい)」という仏教の言葉についてもお話ししましょう。現代では、一般的に「ぎょうかい」と読みますが、仏教では「業(ごう)」と「界(かい)」を組み合わせた言葉であり、「人それぞれの業が生み出す世界」のことを指します。
つまり、阿頼耶識に蓄えられた経験や考えの積み重ねが、その人独自の「業界」をつくるのです。双子といえど、まったく同じ行動や考え方はしませんから、世界の見え方、感じ方が一人ひとり異なる「業界」を生きています。
業界(ぎょうかい)用語といえば、同じ職業などの集団内でしかわからない言葉なので、ギョウカイも、ゴウカイの意味を少し残しているといえます。
そして、職業ごとにも「業(ごう)界」があります。医者は病気の兆候に敏感ですが、エンジニアはシステムのエラーに敏感です。政治家は世論の動きを気にしますが、芸術家は表現の自由を大切にします。同じ世界に生きているようで、見えているもの、重視するものはまったく違うのです。
また、同じスポーツをしている人同士でも、経験によって世界の見え方が違います。プロの選手が試合を観ると、戦略や技術の細かい部分に注目しますが、初心者は単純に「すごい!」と感動するだけかもしれません。これは、彼らが異なる「業界」を生きているからです。