カカの問いに応えるかの如くゆるゆると風が吹き、ちょうど路面電車がため息によく似た音をたてながら駅に到着したところだった。
 しかし、誰も降りてこない。乗り込む人も皆無だ。
 音が消えて時間が止まり、それから深々と深呼吸をする間合いがあって、不意に路面電車はドアを閉ざした。息を吹き返したかのように音をたててゆっくり走り出していく──。
 二枚の写真を手にしたまま、カカは自分ひとりが取りのこされたような心もとなさを覚え、なにやら胸のあたりからこみあげてくるものに、思わず顔をしかめた。

 

       ✻

 

(とにかく、作戦を練ろう)
 カカは作戦を立てるのが得意だった。人生は作戦の連続だと思っている。
 (どうしたら、また彼女に会えるだろう?)
 そのための作戦だった。でも、どうして、また会いたいのか自分でもよく分からない。ほんの一瞬、すれ違っただけで、目と目を合わせて向かい合ったわけでもない。
 でも、会いたい。というか、だからこそ会いたかった。
「あの」と声をかけ、「わたしも同じです」と写真に写った自分のエメラルド色の瞳を見せたい。
 (どうすれば?)
 と、しばし腕を組んで行き着いた結論はじつに他愛なく、証明写真のブースがかろうじて見える斜め向かいのコーヒーショップから、ひたすら見張りつづけるというものだった。

「かろうじて見える」というのは、角度の問題によるもので、コーヒーショップに設けられたカウンター席の最も駅寄りに座り、そのうえ、さらに体を駅寄りに傾けると、視界の端にかろうじてブースが見えた。
 カカは三日つづけてその席を占拠し、根拠はないけれど、
 (かならず、彼女はまた来る)
 と確信していた。
 (わたしも、そうしているわけだし)