「でも」とククは言いたくなった。「相手に好かれたいから、自分をよく見せようと思わない? 三くらいのものを八くらいに見せたり。そういうのも、やっぱり噓ってことになるのかな」
「面白いよね、ククって」とカカは頬をゆるませた。「三くらいのものを、十じゃなくて八くらいにするとか」
「だって、三なのに十と言ったら、すぐにバレちゃうでしょう」
「そこが面白いの。というか、そういうのを作戦って言うんじゃない?」
「そうか──」
「ククはさ」とそこでカカは声を落とした。「ククは、どうして証明写真を撮ったの? 何か必要に迫られて?」
「どうしてなのかは分からなくて、使う予定があったわけでもないし。ただ、『証明写真』の看板が──あの四文字が急に大きく見えた日があって、そうしたら、自分がいまここにいる証明を写真に残したくなって──」
「そうなんだ」とカカは視線を泳がせた。「わたしたちって、本当によく似てるよね。軽はずみにそんなこと言うべきじゃないって分かってるけど、そもそも名前まで似てるし」
 カカもククもあだ名ではなかった。それぞれ、「可々」、「久々」と書く。
「いつかそういうひとに出会えるんじゃないかって思ってた」
 二人は証明写真のブースが見えるコーヒーショップのカウンター席にいて、カカはときどきブースの方をそれとなく見ていた。自分がストーカー紛いの見張りをしていたことはククに打ち明けていない。
 (打ち明けないことも、また、ひとつの噓なんだろうか)
 ときどき胸がざわついたが、運命の女神は思いがけず微笑んでくれた。
 見張るのに嫌気がさし、その思いを記録しておこうとブースで写真を撮って外へ出たら、目の前にククがいたのだ。
「そういうひとに出会ったら、一緒に観たい映画があって──」
 カカはブースから目を逸らし、逆の方角へなんとなく視線を移した。