本物が買えるようになった日本人
こうして80年から90年のバブル崩壊までの間、人々の暮らしは、質的にも変化を遂げます。とくにライフスタイルの変化に顕著なものがありました。
80年にはすでに日本は高度経済成長期を終え、安定成長期に入っていましたが、まだ多くの家庭が慎ましい生活をしていました。家電製品は普及していましたが、とくに最新の高機能家電は贅沢品として捉えられていました。
その後のバブル経済の影響で、平均所得が増加し、家計支出も拡大しました。最新の家電、ブランド品、海外旅行などが一般家庭にも浸透し、「豊かな生活」が現実のものとなりました。「質の良いもの」「高級ブランド品」への需要が高まり、とくにファッション、ブランド品、外食、旅行など、生活に彩りを添える支出が増え、海外旅行が一般的になり、庶民も年に一度の海外旅行を楽しめるようになりました。
住宅ローンの普及や都市開発も進み、都市部や郊外で一戸建てやマンションの購入が増え、住環境が改善され、自宅にマイカーを所有する家庭も増えました。
80年頃は、外食産業はまだ限定的で、家庭で手作りする食事が基本でした。また和食中心で、ファミリーレストランやファーストフードの利用もまだ少数でしたが、90年に向けて、ファミレスやファーストフードチェーンが増加し、外食が一般化。洋食や多国籍料理が普及し、食生活が多様化しました。
テレビが娯楽の中心で、新聞や雑誌が主要な情報源だった80年頃から比べ、90年頃には家庭用ビデオやゲーム機が普及し、テレビも複数台保有する家庭が増え、またファッション誌や高級ブランドのカタログなど情報の多様化が進みました。
こうして消費の選択肢が増え、自由なライフスタイルが享受されるようになり、ホンモノを理解した日本人の生活がレベルアップしました。一方で失われた30年のスタートを切った時期でもあり、この後、ファッションは消費の有り様からサプライチェーンの仕組みまで大きく変化していくことになります。
※本稿は、『アパレルビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
『アパレルビジネス』(著:久保雅裕/クロスメディア・パブリッシング)
まだら模様のファッション業界を見渡すと、そこには時代が映されている。
ファッション好きから業界関係者まで楽しく読めるアパレルの教養。