さらにおもしろいのは……
さらにおもしろいのは、この倍率が、「今、たまたま」ということです。
実は、月は毎年3.8cmほどのペースで地球から遠ざかっています。100年で4m離れる計算です。
4mだと違いはわからないかもしれませんが、大昔はもっと近くにあったわけですから、タイムマシンで月ができたての頃の地球にタイムトリップしたら、今より何十倍も大きな月にびっくりするはずです。
反対に、将来は月が離れていきます。
現代の私たちは世界中で月を見ることができますが、計算によると、月が離れ切った遠い未来では、月がはるか上空の同じ場所で満ち欠けをくり返します。
月の出も月の入りもなく、ただ同じ空でじっと動かない月――。
もしもその世界にも生物が地球に暮らしているなら、月が見える地域に暮らす彼らだけが単調に形を変える天体を見上げることでしょう(※2)。
さて、月が離れつつあるのは、宇宙空間に浮かぶ天体が自然の法則にしたがっているからにすぎません。
その奇遇に気がつく者がいなければ、おもしろくも何ともないでしょう。
けれども、長い時間をかけて大きく変わっていく天体の関係性の中で、たまたま太陽と月が同じ大きさに見えるスペシャルなタイミングに、この奇遇に気づけるほど十分に進化した私たちがいて、「へえー」とやっています。
淡々とした無機質な宇宙のできごとも、びっくりしたり感心したりする心があれば、奥の深い「風景」に変わります。